PART 4　潜入

　「第３段階に移行する」
　作戦の第３段階。それは、この軍事コロニ−を制圧するため、コロニ−の内部に潜入する
ことにあった。
　「ドッキングアウト！」
　潜入の際、合体したままでは、恰好の標的となるため、３機に分離し、各機単独で潜入す
る事で、注意を分散させる作戦である。
　「１０分後に中で落ち合う」
　３機にわかれた機体は、それぞれの方向へ散った。
　各機は、迎撃の砲弾をかいくぐり、砲台をバルカンで潰していく。
　別れてファイタ−形態になった各機には、３機のジェネレ−タ−を共有させて生み出して
いたＭＳ時の高出力の武器は使えなかったが、白兵戦を目的で作られたＭＳと違って、砲台
程度に、ガンダリウム・ガンマのような強固な材質は使われておらず、バルカンでも充分破
壊が出来た。
　砲弾の嵐をかいくぐる中、カミ−ユは、小型機用のドックを見付け飛び込んだ。
　分離して小さくなった機体には、ＭＳ専用ドックで無くても、潜入可能であり、３機に分
離した撹乱以外のもう１つの理由でもあった。
　ドックを抜けると、目の前には無機質かつ不気味な軍事工場が広がる。
　大抵のコロニ−には、地球を離れても大地を恋しがる気持の精神安定のためにも、緑の樹
々が広がる山々が所々にあるのだが、このコロニ−には、生活する上での酸素を保持する必
要最小限の分しか無いようであった。
　生産を急ぐあまり、所々無造作に油にまみれ汚れ放題のコロニーは、まさに地球に居座り
汚す者達を象徴しているようにさえ思えた。
　『大尉とファは、無事潜入できただろうか？』
　そんな事を考えつつ、カミ−ユは、入手していたコロニ−のデ−タから割り出した合流地
点に向かっていた。
　様々な建物が並ぶコロニ−内は、認識するべき対象物が散漫としているため、カミ−ユは、
目を素早く動かし、周囲へ気を張り巡らす。
　その気と視線が瞬間捉えた物は、建物の角から放たれた攻撃だった。
　機体を傾け、回避運動を行った瞳が認識した物は、護衛用に配備されているハイザック１
機。
　装備的に不利なファイタ−形態に、交戦を避け、速度的な有利さを使って大尉達と合流し
た方が良いと判断したカミ−ユは、フルスロットルにして、その空域の離脱を試みた。
　しかし、その方向をマシンガンが遮る。
　護衛する区域が近かったのか、もう１機、ハイザックがいたのだ。
　挟み撃ちのように飛び交う銃撃の合間を、回避に徹する以外、余儀無き状況。
　いつまでも切りの無い回避を打破するために、２機のハイザックの、どちらか１機を倒す
しかないと腹を決めたカミ−ユは、一方のハイザックを標的に決め、銃撃を回避しながら突
進した。
　装備的に不利なファイタ−で選んだ武器は、タイプ・百式でも使われ、今はコア・百式の
機首部分となってるランスでの体当たり。
　全ての銃撃の隙間を縫い接近する神業に等しい事を、カミ−ユはギリギリの緊張感の中、
やってのけた。
　機首は、撃ち落とす事に夢中で、回避を怠ったハイザックの胴を打ちのめした。
　「カミ−ユ！後ろだ！」
　ホッと緊張の解けた所を、叱咤する声が聞こえ、カミ−ユは慌てて回避を行った。
　旋回し、目に写ったのは、後方にヒートホークを振り落とした後のハイザックのモ−ショ
ン。
　認識したのもつかの間、体制を立て直そうとするハイザックを、突如、上空から赤い物体
が襲いかかり、ハイザックを押し潰した。
　赤い物体。それは、コア・Ｚであった。
　その形状は、ファイタ−モ−ドより、後方にあるべきブ−スタ−を下方へ突出し、ハイザ
ックを踏み潰す様は、鷹が獲物に襲いかかるようであった。
　「大丈夫？カミーユ」
　「・・・ああ」
　先に大尉と合流していたファからの問いかけに、カッコ悪いところを見られたようで、気
の無い返事を返した。
　「ありがとうございます大尉。ところで、その形態は？」
　「正規の変形には無いが、構造上、可能では無いかとマニュアル動作で試してみたのだが」
　初めての機体で、実戦の最中に閃き成し遂げたその戦闘センスに、カミ−ユは、シャアの
力を改めて思い知らされた。