PART 5　コア・Ｚ

　３機は、一路、中枢部へ向かった。
　「作戦の第４段階に移行する」
　「Ｚ・フォーメーション！」
　コア・ガンダム・タイプ・Ｚとなるべく、展開される隊列。
　「コアチェンジ。タイプ・Ｚ！」
　タイプ・Ｚは、脚部にコア・メタスのブ−スタ−を位置づけることによって旋回性に長け
建造物が立ち並び障害物の多いコロニ−内での戦闘や白兵戦に能力を発揮する。

　「私は、エゥ−ゴ軍大尉、クワトロ・バジ−ナである。このコロニ−は、我々が占拠した。
速やかなる投降を勧告する」
　クワトロは、一応の例にならって投降を呼びかけた。

　この光景を映し出すモニタ−を、軍事コロニ−の司令官は憤怒の形相で見詰める。
　「たかが１機の可変ＭＳが！、このコロニ−を落とすというのか！」
　司令官はギリッと歯ぎしりをした。
　「このワシ自ら討って出るわ！」

　タイプ・Ｚの前に、敵司令官が駆るバウンド・ドックが姿を現わした。
　「やはり、素直に投降など、しようはずは無いか・・・・」
　クワトロは、当然だろうと思いつつ、形式的に呼びかけなければならない事が疎ましかっ
た。
　タイプ・Ｚはバウンドドックに応戦すべくシールドを両刃の巨大な斧として抜き構えた。
　バウンドドックは右腕のクローを振りかざし、その巨体を突進させる。
　タイプ・Ｚは斧の柄で受け止め猛攻をしのぐと、クローが食い込む位置を軸とし、回転さ
せ斧刃をバウンドドックに向け攻撃に転じるが、左腕のシールドが阻み、双方は後方へ跳び
間合いを空けた。
　「この動き・・・・、赤い彗星の・・・・シャア？」
　敵の司令官は、タイプ・Ｚとのわずかな攻防に、シャアを感じた。
　かつての７年戦争で、この司令官はシャアに撃破された過去を持っていた。
　撃墜された瞬間、目に焼きついたあの光景がオーバーラップし、確信となる。
　「ジオンのシャアが、ガンダムを駆るというのか！」
　湧き上がる怒りが鬼神のごとき猛攻を仕掛けた。
　「なんだ！このプレッシャーは？」
　怒りのままに暴れまわるバウンドドックの攻撃は、クローもシールドも関係無く振り回し、
まるで子供のように単調であったが、我を忘れ躊躇なき突進と、その気迫が、わずかにタイ
プ・Ｚの自由を奪い、あしらう事が出来なかった。
　しかし、シャアは、いつまでも気押されるような無能な者ではない。
　何回かの攻撃を受け止めたさい、バウンドドックのその重厚なスカート部を蹴りつけ間を
空け体制を整えると、なおも突っ込むバウンドドックの攻撃を左へいなし右へ摺り抜けると、
振り向きざま斧をその背中に叩き込んだ。
　つんのめるように倒れこむバウンドドック。
　起き上がり振り返ったバウンドドックにタイプ・Ｚは、攻撃をたたみかける。
　一撃、二撃、三撃・・・・。
　次々と打ち込まれる攻撃の前に、ついにバウンドドックは崩れ落ちた。
　バイザーを開け、シャアは一息つく。
　大型とはいえ、ビームの切れ味を持たぬ斧では一撃で致命傷を与える事が出来ず、その結
果、連続して攻撃をせざるを得ず、肉体的精神的疲労も相当な物となった。
　「大尉」
　「ああ・・・・」
　クワトロとカミーユは、タイプＺに向けられていたプレッシャーへ思案をめぐらせていた。
　それは、ファとて感じられた事であり想いは同じであった。
　だが、次の瞬間！。
　地へ沈んでいたバウンドドックの巨体が、バーニアの勢いだけで浮かび上がるとタイプ・
Ｚに襲いかかってきたのだ。
　うかつであった。
　既に起動不能だと思い込み、一息入れてしまうなど、シャアらしからぬ失敗である。
　不意を突き、覆い被さってきたバウンドドックは斧を弾き、タイプ・Ｚを組み伏せる。
　「貴様に、負けるくらいなら・・・・」
　接触した機体の振動を通してバウンドドックのパイロットの声が聞こえてきた。
　「・・・・死なばもろとも巻きこんでくれる！」
　叫び終わるのと同時にコロニー全体に非常警報のサイレンが鳴り響いた。
　既に力を失ったＭＳで、死してもタイプＺを倒したい狂気の復讐心が選んだ手段はコロニ
ーの自爆装置を作動させての心中だったのだ。
　「コロニーとコロニーに住む人を巻き込んでまでなんて、正気じゃ無い！」
　執念の鬼と化した者に周りの事など、もう見えなくなっている。
　タイプ・Ｚは、バウンドドックを振りほどこうと試みるが、両足を踏み締められ、両腕も
組み伏せられ、まさに手も足も出ない状況であった。
　「クッ！」
　不意にバウンドドックのコックピットが開き、血に染まった顔が覗いた。
　「シャア・・・・、シャア、シャア、シャアァァァ！」
　バウンドドックのパイロットの思考は異常をきたし、もう会話にはならない。
　シャアは、なんとか切りぬけようと頭に入っているタイプ・Ｚの設計図から、あらゆる機
構に思考をめぐらせる。
　「これか？」
　手動の操作でコア・Ｚの機首をせり上げると、その下からコア・百式の上昇用に使われる
バーニアが姿を現した。
　「今だ、カミーユ！。バーニアを吹かせ！」
　「はい！」
　バーニアから噴射される炎がバウンドドックを焦がす。
　「グアァァァー」
　コックピットから乗り出していたパイロットは、防ぐ装甲も無く、炎に包まれ断末魔の叫
びを上げ絶命した。
　ＭＳ戦で直接死に様を見ることの無いファは、目をそむけざるをえなかった。

　しかしコロニー爆破のカウントダウンは、いまだ止まる様子が無い。
　タイプ・Ｚは、今一度振りほどこうと試みるが、コントロールを失い力を無くし振りほど
けそうに思えたバウンドドックは、逆に崩れ落ちた全重量が加わりビクともいない。
　変形合体による構造の弱さから、タイプ・Ｚの機体は、きしみを上げている。
　「大尉、もう時間が！」
　「・・・・やむを得ん。カミーユ、ファ。こちらに来い。コア・Ｚを切り離し脱出する」
　シャアは、唯一押さえられていないコア・Ｚにカミ−ユとファを呼び、コア・Ｚを切り離
し、コロニーを飛び立った。
　後方に見えるコロニーは、次々と火の手が上がっている。
　「コロニ−も・・・・、コア・ガンダムも失ってしまいましたね」
　「ありもしなかったＭＳを使うということは、こういう結果を招くのかも知れん」
　「大尉・・・」
　「聞こえるかア−ガマ。これよりクワトロ・バジ−ナ以下２名。帰艦する」
　宇宙世紀００８８、間もなくアクシズ・ティタ−ンズとの三巴の最後の戦いが始まる。